ゼロエミッション 研究構想(Zero Emission Research Initiative)は、現在第2段階へと進行している。前・国連大学学長顧問グンター・パウリの提言により、3年前、東京青山の国連大学を本拠にスタートしたこのプロジェクトは、廃棄物ゼロの循環型産業システムを形成していくため、1)理論的なフレームワークの作成、2)一般産業界に応用可能な方法の試験、3)トレーニングコースのデザインを実現した。これと並行して、4)その技術的、科学的な応用可能性、そして経済メリットを証明するために数々のパイロット計画を実行。その結果、ZERIのコンセプトは雇用機会を創出し、収入を増やすモデルを運用しながら、公害を削減することができるという確かな結論を得た。21世紀の経済発展のモデルがここに誕生した。
この3年間ZERI財団は構想実現の為、科学的根拠に基づいたパイロット計画を組織し、世界各地でのトレーニングの成果を蓄積してきた。またゼロエミッション 研究構想のさらなる拡がりを視野に入れた組織作りを進め、'95年には南米コロンビアのボゴダ、南アフリカのナミビアに事務所を開設、'96年にはプログラムの実施を重点的に取り扱うZERI Foundation (ZERI財団)を設立し、本部をスイスのジュネーヴにおいた。そして本年9月より日本にも事務所を開設した。
ゼロエミッション構想は今後3年間、より広い領域に渡り人々にアピールするだけの支持を確立した。日本政府は1996年度の環境白書でゼロエミッション研究構想を産業界の目標に据えた。東京大学はゼロエミッション研究構想の理論的な枠組みを開発する目的で一千万ドルの補助金を政府から得た。ヨーロッパ、アフリカ、東南アジア、太平洋の首脳がさらなる 実施に個人的にコミットしている。
西暦2000年にドイツのハノーヴァーで開催される万国博覧会(EXPO2000)はゼロエミッション:増収、雇用の増加、無公害、というスローガンをそのコンセプトとして取り上げることになった。ゼロエミッション研究構想の第二段階の明確な目標を掲げることがこれにより促進された。1)能力開発と職業訓練 2)早期実施と成功したパイロット計画の拡充 3)持続可能な生活の実現が重要課題となっている分野での科学研究の着手。以上がその目標となる。
1:能力開発と職業訓練
ZERI財団はいろいろなレベルでの能力開発に優先的に力を注いでいる。これが計画の迅速な実施、そして、既存及び新しいパイロット計画に基づいた経験の普及を促進することを可能にする。
職業訓練を伴うフィジーにおけるシステムベースプロジェクト、ナミビアでの統合バイオ・システム 、コロンビアの再植林事業は、ゼロエミッション研究構想の具体的な実践における興味深い経験を提供してくれる。このプロジェクトは現在、科学的、社会的、経済的な角度から記録され、地域の状況を考慮しつつ、これらの計画を他の場所でどのように再現できるかに関して洞察の基礎を作る。しかし、能力開発によって必要な人的資源が用意されていない限り計画の再現は実行不可能である。よってZERI財団は以下に記す実行計画を確立した。
1-1 ZERI フェローシップ
ZERI財団は大学を卒業した若い人達に ZERIのプロジェクトの現場での経験を積ませることを望んでいる。現場が増えるにしたがってフェローとなる人間も増加する。1997年は10人のフェローによる合計100ヶ月のトレーニングが受け入れられた。1998年はフェローが25人に増員される。(250ヶ月のトレーニング)
1-2 ZERI講座
ゼロ・エミッション構想は統合された科学的なアプローチを必要とする。生物学、化学、工学、経済学の基礎が、相互に関連しあい生成科学を形成している。通常、大学の教授達は自らの専門外の研究をする時間がない。ZERI講座の開設は学識者にフルタイムでこの研究に取り組む機会を保証するものとして注目されている。
1997年、ユネスコと国連大学の助成を受け、ナミビア大学に最初のZERI 講座が設けられた。この講座は南アフリカを対象地域とし、ケト・ミシゲニ教授博士が受け持っている。この講座は3年間に及ぶものとなる。これらの講座によって、科学研究論文の発表や各国のパイロットプログラム、商業プログラムのガイダンスといったZERIカリキュラムの充実をはかることができる。1998年には3〜6講座が増設される。
1-3 統合バイオシステムの修士号
ジャカルタで開催された第3回ゼロエミッション世界会議の場で、6つの大学がZERI教育プログラムの創設のために協力しあうことに合意した。これらの大学の代表者がコロンビアのマニザレスで1997年9月に集まり、共通のプログラムのデザインをした。そこで統合バイオシステムの修士号を授与する1年間のインテンシヴ(集中)コースを設置することが決定された。
この500時間のコースはZERIフェローによって開発されたケーススタディーに依ることができる。そして主要科目はZERI科学顧問委員会に所属する研究者、ZERI講座を受け持つ研究者によって運営されていく。教授、講師は卓越した学問的な業績や商業的な洞察とともに現場での経験を共有する。
教授陣は各国を移動することになるが、国際修士プログラムの主要な部分はスイスのジュネーヴにおかれることになる。このコースは20科目からなり各20‾30時間づつの授業となる。
1-4 管理職研修、概況説明プログラム
ZERIフェロー、ZERI講座、修士プログラムの教授陣は管理職研修プログラムを組織する臨界量を設定する。キャノンやBP(英国石油)といった大企業への概況説明セッションの実施経験と共に、ZERIは既に1〜3日の研修プログラムを実施した経験がある。このプログラムはケーススタディー、資料、プレゼンテーション構成、経済界の特殊な要求に応じることに焦点を合わせることを必要とする。
1-5 政府職員研修講座
ZERI概念の発展を成功させるためには、複合的なレベルでの実行いかんにかかっている。これには各国政府が重要な役割を果たすことになる。そのため、政府職員にZERIフェローシップ、修士学プログラムなどへの登録の機会を与えている。ZERIは政府の特殊なニーズにに見合った特別なプログラムを設定するつもりである。米国資源エネルギー省、インドネシア政府がすでにクライアントとなっている。
1-6 地域導入プログラム
ZERI フィールドプロジェクトを実行する過程は興味深い経験である。それゆえ、この構想は監視、アセスメント、学習、改良のためにその中間段階で公開されている。これらのプログラムは地域レベルで、現在進行中のプログラムの改良を可能にし、また、地域開発を誘導する。けっして押しつけない、そして公開する、というアプローチは対話と専門知識の交換という基盤をつくる。
最初の2つの会合は1997年、南アフリカのナミビアと南太平洋のフィジーで開かれた。これらのプログラムはUNDP(国連開発プログラム)の援助を受け、実施された。次のプログラムは1998年にタンザニア、メキシコ、コロンビア、ブラジルで実行される予定である。(インド、中国でも可能性がある。)
2. 早期実施
ZERIの戦略の特徴は組織を作ることよりも、構想に実際に着手することを選択してきたことにある。ZERIがスタートして3年を経た1997年の終わりには、しかるべきトレーニングが与えられ、現地の状況に見合った組み込みを可能にする柔軟性をもってすれば、同じプログラムの複製を実施する準備ができるだけのフィールドプロジェクトを持つことができるようになった。
ZERIとその提携相手が既に確立した軌跡:
(1)農業、農産業のバイオマス廃棄物を完全に活用する統合バイオシステム。
ビール醸造(発酵過程)、水ヒヤシンスのバイオマス利用など。
(2)統合バイオシステムに基づく島の開発計画
(3)コロンビアのラス・カヴィオタスの例に基づく再植林計画
(4)エコ・ツーリズム
(5)酵素抽出システムに基づいた虐殺場管理
2.1. プロジェクト及びその過程の記録
これら各分野で、ZERIは科学的、産業的な具体例と経験がある。これらのプロジェクトを別の場所で同じく実施するためには、徹底的な記録が必要とされる。そしてそれには、ZERIフェローが大きく貢献している。何が、どのようにして実施されたのか、きめの細かい観察や学習された事例は他の関連分野のプロジェクトに重大な示唆を与える。これが、ゼロエミッション研究構想が収集し、その適用を可能にするための中核となる知識ベースである。
これらの経験は記録され、その結果、ビジネスプランに再パッケージされる。これにより、商業的、投資的な観点からもその有効性が実証される提案へとしていくことを可能にした。1997年にZERI財団は10のゼロエミッション・プロジェクトのための資金を確保した。そして内4つは詳細な業務、財政計画が立てられた。
1997年に、フィジー、ナミビア、コロンビアでの3つのプロジェクトが、インフラに関してはほぼ完成段階まで発展した。1998年にはアフリカ(タンザニア、ジンバブエ、マラウィ、南アフリカ)、南太平洋(トンガ、キリバス、サモア、ソロモン諸島)、ラテンアメリカ(メキシコ、ブラジル、コスタリカ)で実施計画の開始が予定されている。
2.2. グローバル・インパクト・アセスメント
基金を提供してくれる機関、基金団体、パートナーを動機づけるためには、これらのプロジェクトが地球規模で与える影響を定量化する必要がある。この際これら該当分野での経済活動の主体の大多数がZERIコンセプトを採用する、と仮定することが必要である。
しかし、このグローバル・インパクトの研究は未だ実施されていない。それはこのような評価を可能とする中核的な資料が不足しているからである。もっとも1998年には最初の4つのマクロ経済とグローバル・インパクト・スタディーが実施され、その成果を出版することが予定されている。その四つとはビール醸造、水ヒヤシンス、パール椰子の植林と再植林のプロジェクトである。この眼目は付加価値、雇用の創出と環境汚染の除去である。
2.3. プロジェクト・チームづくり
プロジェクトの早期実施は、機動性をもち、経験を積んだ、高い動機付けをもった個人によるコア・チームの存在如何にかかっている。ZERI財団は、ジョージ・チャン教授やパオロ・ルガリ教授博士のような熱意ある人々の献身から多大な恩恵をこうむっている。それなしにはこの分野での成果を上げることは不可能であったろう。ZERIが持続可能な生活を発展させる希求をもって行ってきた貢献にこの二人の何十年にも成る経験が加算されることが大切なのである。今や同じ様な経験の幾層倍のことが、プロジェクトチームの中核が発展すれば起こりうることを想像できるまでになってきている。ZERIフェローシップ・プログラムはこれを可能とする一つの要素だが、動機やインスピレーションの継続性をつくり、この道の新しいリーダーを早期に見出すために必要となっている。このリーダーシップづくりのプログラムは比較的小さなものながら最も重要なZERIの戦略なのである。
3. 研究構想
ZERIプログラムは科学と技術の間の断絶(失われたリンク)に焦点を当てており、それによってより高い生産性とより大きな付加価値を生み出している。科学者同士が協働することによって、きわめて多様なノウハウが統合されたシステムに結実する有様は示唆に富んだものである。その方法は持続可能な生活に向けての的を持ち、探求を可能にするのみならず、科学と技術との間の失われたリンクが何であるかを見つけることにもなった。この失われたリンクはそれ自体指摘、評価されるべきであり、もしどこかで問題が適切に解決されていないのなら、橋渡し作業を要するのである。
実際の経験からして、二つの潜在的に豊かでありながら今まで手を触れていなかった統合システムを発見することが出来たのである。それは、1)キノコ(菌類)と2)ミミズからの酵素である。両者共にユニークな消化能力をもち、地球のエコシステムにとって重要な役割を果たすものである。
3.1. 熱帯キノコ
廃棄物として扱われていた残留物を付加価値のあるものに変換することのできるキノコの可能性は、フィジーとナミビアでのビールの醸造、ジンバブエにおける水ヒヤシンスの再生、コロンビアのヴィチャーダでの再植林のプログラムで示された。
キノコ産業は100億ドル産業に成長している。収穫の多くは、白いボタン状のキノコでフランス原生である。最近この分野で行われている投資の大部分は温帯性のキノコに集中しているが、実は1000以上の種類がある熱帯性のキノコは中国種のものを除き殆ど注目されていないのが現状である。
このプログラムは熱帯の生物相の多様性(バイオダイバーシティー)の保存と持続的開発との研究において存在する断絶に関するものである。菌類は昆虫に次いで二番目に大きな多様性をもっており、約120万種あるとされている。約10,000のマクロキノコ菌ないしはキノコの内半数は食用に適し、ほとんど全てのキノコは薬学的に価値を持つか、豊かな酵素成分を持っている点で興味あるものである。
(二つ目に有利な点)として、キノコが廃棄物(残余物)にとりついて繁殖する点で、従って無価値のものに付加価値をもたらすことである。このようにして熱帯性キノコは廃棄物を付加価値のある産物に変換するというZERIの文脈内でのリンクを提供するのみならず、持続可能な生活の追求の中で主要な要素でもあるわけである。
問題は単に情報とノウハウの欠如にあるのではなく、熱帯性の胞子がきわめて手に入りにくいということである。胞子バンクは大抵、温帯性の種類ばかりを提供するのが常である。ZERI財団は、中国産キノコ培養の成功で知られる香港中華大学の名誉教授S.T.チャン博士との共働で熱帯キノコ研究の先陣を切る計画をもっている。これによって南太平洋、ラテンアメリカ、南アフリカ、東南アジアの四地域のノウハウ・センターだけでなく、一つの研究ネットワークを設立する計画なのである。1998年の前半に行われる実情視察団の作業に引き続いて、詳細なプロポーザル(案)が出される予定である。
3.2. 酵素の抽出
ZERI は、酵素の生産をいくつかのバイオシステムとして整理統合し、3.1で問題としたような熱帯性キノコへのアクセスを推進するのみならず、特にミミズの出す酵素を含めて、数種の酵素の抽出に主要な役割を果たしたいとしている。
ミミズは、5種(eisenase, fellulase, fetilase, fetipase wormase)の酵素を持ち、それはph値8.3〜2.8の低い値までの際だった環境の中で作用する。これらの酵素を分離抽出すれば、従来遺伝的に操作された酵素に頼っていたバイオテクノロジー応用にとって、幅広い道を開くことになる。自然に存在する酵素の量は予見されていないので、これらの酵素の自然的な生産は可能性として切り捨てられていたのである。ところがこれこそが今では応用研究のテーマになっているのである。
ZERI の文脈の中では、酵素分離の過程で生まれる残留物は蛋白質であり、これは鶏や豚にとって優れた飼料なのである。このようにしてゼロエミッションのコンセプトはさらに拡張されて、付加価値が生まれ、高いレベルでの科学上の発達がシステム内で応用され、ローカルなテクノロジーが先進的なノウハウと融合するのである。
フィージビリティースタディー(実現可能性の研究)がスウェーデン王立アカデミー会員のカール-ゴラン・ヘイデン教授博士によって行われており、パイロットモデルが実行されている。これによって1998年の中頃には詳細なプロポーザル(案)がなされることになっている。
グンター・パウリ
ZERI財団代表